ボイスドラマ「燈がつなぐ夏」(美里町)

「オレの足になってくれ」

埼玉県美里町に400年以上続く伝統行事「百八燈」。兄の事故をきっかけに、その想いを受け継ぐことになった少女・青藍。

反発、後悔、そして成長――
灯りに込められた“つなぐ想い”を描く、ひと夏の物語。

【ペルソナ】

・青藍(せいら:14歳=中学二年生/CV:堀籠沙耶)=燈真の妹。東京へ行きたくて仕方ない

・燈真(とうま:18歳/CV:廣庭渓斗)=青藍の兄。猪俣の百八燈を大切にしたいと思っている

[猪俣の百八燈「子供たちが紡ぐ夏」】

【シーン1/七月後半の朝】

■SE/初夏の蝉の声(ニイニイゼミかアブラゼミなど)

「ざけんな!うちのどこがチャラいの!?」

あ・・・

だめだ。またキレちゃった・・・

いや、うちのせいじゃない。

お兄ちゃんが悪い。

うちは青藍(せいら)。

14歳。美里町の中学校に通う二年生。

夏休みが始まったばかりの朝。空は抜けるように青く、山の稜線から顔を出した太陽が、

田んぼの緑を鮮やかに照らし始める。

4個上の兄は

夏休みまで返上して、毎日毎日百八燈(ひゃくはっとう)/萬燈祭(ばんとうさい)の準備。

朝から晩まで帰ってこないし。

え?

百八燈(萬燈祭)、知らない?

百八燈(萬燈祭)っていうのはね、ここ美里町猪俣(いのまた)に伝わるお祭り。

お盆の送り火行事?

400年前から続いてるんだよ。

戦時中も、コロナのときも途切れなかったんだって。

堂前山(どうぜんやま)(山)の尾根にある百八つの塚。

毎年8月15日の夜、塚に燈(あかり)を灯していくの。

祭の中心は子どもたち。

塚の修理から燈の準備までぜ〜んぶ子どもたちがおこなうのよ。

すごいでしょ・・

あ、言っとくけど

うちは百八燈(萬燈祭)なんてキライだから。

兄の燈真は、小学校5年生になると百八燈(萬燈祭)の若衆組(わかしゅうぐみ)に入った。

それまで、夏休みはいつもうちと一緒に遊んでたのに。

朝、ラジオ体操が終わるとそのまま公民館へ。

お昼ごはんをみんなで食べたら堂前山へ。

草むしりをして、塚の準備をして・・

夕食の時間が過ぎても笛や太鼓の練習。

よくわかんないけど、意気揚々と出かけていく・・

なぁにがいいのか・・

ゲームしてる方がよっぽど楽しいじゃん。

うちには全然わかんない。

今年は最年長だから、親方?ってのになって

参加する子どもたちをまとめてるんだって。

ばっかみたい・・

ってぼそって言ったのが聞こえちゃって。

『オマエみたいなチャラいやつに言われたくない。目ざわりだ』

だって。

チャラい?めざわり?

売り言葉に買い言葉。

で、冒頭のセリフ。

「ざけんな!うちのどこがチャラいの!?」

■SE/扉を閉める音〜駆け出す音

家を飛び出して、自転車に乗る。

走りながら目には涙が・・

知らず知らず堂前山(山)の麓へ。

国道のバイパスを渡ろうとしたとき・・・

「あぶない!」

「え?」

■SE/急ブレーキの音と自転車の転倒音

【シーン2/ER病棟の病室】

■SE/ヒグラシの鳴き声

■SE/病室の環境音(人工呼吸器の音)

気がつくと、病院のベッドの上。

パパとママがうちに背中を向けて立っている。

その向こう。

ベッドに寝かされているのは・・・

おにいちゃん!?

なんで!?

手足に巻かれた包帯とギプス、人工呼吸器の音がうちをパニックにした。

「ママ!」「パパ!」

ママもパパも振り向いてうちを見る。

でもすぐに優しく微笑み、状況を教えてくれた。

うちが家を飛び出したあと、兄は自転車で追いかけたそうだ。

もうすぐで追いつくってとき。

うちはなんにも考えずに国道へ飛び出す。

そこへ車が・・

兄はうちを庇って、自転車ごと投げ飛ばされた。

■SE/病室の環境音(人工呼吸器の音)

幸い、命に別状はないということだけど。

ギプスで固定された右腕と足首。

足首はベッドの上に高く載せられている。

松葉杖を使わなければトイレにも行けない。

え?じゃあ、百八燈(萬燈祭)は?

あんなにがんばってたのに・・

病室の隅に置かれたパイプ椅子。

兄が着ていた祭りの法被(はっぴ)がかけられている。

鮮やかな藍色。

消毒液の匂いが漂う真っ白な病室で、それは残酷なほど浮いて見えた。

その夜。

病室から帰ろうとするうちに、ママが声をかけた。

”お兄ちゃんが呼んでる”

え?

踵を返すと、兄がこっちを見ている。

うちは小走りで兄に近づき、

「ごめん・・・お兄ちゃん」

兄は笑って人差し指を口にあて、手招きした。

「なに?」

耳元へ近づくと・・

「青藍、若衆組に入れよ」

え?

「オレ、今年はもう無理だと思うから」

朝、喧嘩してたときとはうって変わって、すっごく優しい声で微笑む。

「代わりにオマエが入ってくれ」

「そんな・・」

「オマエにしか頼めない」

「無理無理無理。ぜったい無理」

「オマエの法被姿。きっとかっこいいぞ」

兄はそれ以上なにも言わず、

私を見て、ずっと笑っていた。

【シーン3/百八燈(萬燈祭)に向けて】

■SE/盛夏の蝉の声(クマゼミかミンミンゼミなど)

結局、うちは若衆組に入ってしまった。

なんか、兄の笑顔に背中を押される感じで・・

親方は、次親方(つぎおやかた)の海斗(かいと)が引き継いだけど、

すっごく大変そう。

塚へ続く道の草取りをしたり、燈明を作ったり。

町内を回って人別集め(にんべつあつめ)という寄付金集めまで。

へえ〜、お兄ちゃん。

こんなことしてたんだ。

え〜。粘土もこねなくちゃいけないの?デコったネイル、とれちゃうじゃん。

うちは、首からネックファンを下げて、

法被を短く結び、ウエストをチラ見せする。

次親方の海斗は、苦笑いしてるけど、なにも言わなかった。

【シーン4/百八燈(萬燈祭)当日(8/15)】

■SE/ヒグラシの鳴き声

あっという間に半月が過ぎ、

気がつけば、8月15日。

百八燈(萬燈祭)当日。

うちは高台院(こうだいいん)(菩提寺)でばちを握る。

■SE/寄せ太鼓の音

海斗とうちの寄せ太鼓で百八燈(萬燈祭)は始まった。

後ろで子供組の小学生たちが篠笛(しのぶえ)を奏でる。

ネイルは、いつの間にか剥がれ落ち、

指先には練習でつぶれた豆の跡。

古(いにしえ)の武将、猪俣小平六範綱(いのまた/こへいろく/のりつな)の塚に、

(古の武将の塚に)

厳かに燈が灯る。

続いて、百八の塚へとちょうちん行列が動き出した。

遠くから見るとそれは、

地上に落ちた星屑のように見えたかもしれない。

炎天下、汗を流しながら自分たちでこしらえた百八の塚。

そのひとつひとつへ、丁寧に燈を灯していく。

鬨(とき)の声。

五十塚(ごじゅうづか)への点火。

■SE/打上げ花火の音

クライマックスは、打ち上げ花火。

夜空の大輪が子どもたちを労う。

そのとき、見覚えのある笑顔が花火の灯りに照らされた。

え?

お兄ちゃん!?

両目とも3.0のうちだから、見間違うことはない。

百八燈(萬燈祭)を見る大人たちの中。

兄が松葉杖をつき、不安定な体勢で立っている。

お兄ちゃん!退院・・したんだ・・

白い包帯とギプスで固められ、首から吊られた右腕。

でも、顔は、満面の笑み。

うちもそれに応えて右手を上げ、親指を立てる。

兄は大きくうなづいた。

お兄ちゃん、もっかい言うよ。

”うちのどこがチャラいの?”

美里町猪俣に、夏の終わりを告げる送り火。

満天の星の下で、いつまでもゆらめいていた・・・

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