【震えが止まらない話】由良峠の奥に棲むもの | 誰かが見ている気がする

現実と非現実の間にあるような怖い話を紹介。
今回は「由良峠の奥に棲むもの」というお話。

これは、4年前の8月に実際に体験した話だ。
あの時の嫌な空気、いまだに夏の終わりが近づくと首筋がざわつく。

当時俺は大学を卒業してすぐ、洲本市の祖母の家に数か月だけ身を寄せていた。都会での就職が決まらず、祖母が一人になったのをいい口実に田舎でのんびりしていたんだ。
兵庫の夏は想像以上に湿っぽくて、特に由良町付近の山道は昼間でも木が鬱蒼としている。雨の日なんかは昼でも真っ暗だし、夜になると影しかない。

信じてもらえないかもしれないが、その夏、俺と友人のユウジ、そして従姉妹のサキで起きたことを、今もちゃんと説明できない。だが一つ確かなのは、あの時あの場所に近づかなければ、たぶん何も知らないまま生きていけただろうってことだ。

それはお盆のちょっと前のこと。ユウジが「廃屋探検でもしよう」と言い出した。サキは怖がりだったけど、俺たちにつられて結局ついてきた。目的地は特に決めてなかったが、由良から海沿いの道路を抜け、例の鬱蒼とした山道まで自転車で走ることに。

三人とも地元に馴染んでるつもりだった。道沿いの小さな地蔵や、苔むしたガードレールも何度も見た。でも、サキは「この道、なんか嫌だ」とずっと言っていた。ユウジが「気にしすぎ」って笑うから、俺も冗談交じりに「お化けでも出るかもな」なんて言った。

山道の途中、急に陽の光が弱くなった。時計を見ると、まだ午後三時前。
それなのに、空気がべっとりと重く、耳の奥で、ざわざわと草を踏むような音がした。
たまたまだと思っていたけど、何か変だった。
道脇の草むらに、白っぽい何かがちらっと見えた気がした。その瞬間、サキが「やめよう!戻ろうよ!」と声を震わせた。

「いや、ただのゴミ袋とかでしょ?」
俺が言うと、サキはずっと一点を見たまま微動だにしない。
振り返ると、道の端、枯れた木が折れた下に、何かがうつぶせになっているのがわかった。痩せた白い足首だけが、不自然な方向を向いている。ユウジが「見なかったことにしよう」と言った瞬間、風が一気に吹き込んできて、木の葉が舞った。

確かにそこには“誰か”がいた。でも、俺たちは誰も顔を見なかった。見てはいけない、そんな気がしたから。

とにかく自転車で一気に坂を下りた。その間、ずっと後ろから、低い女のうめき声のような音が聞こえていた。

祖母の家に戻ってからも、サキは震えっぱなしだった。その晩、俺のスマホには非通知からの着信が三度あった。
翌朝、由良の道路脇で女性の遺体が見つかったとニュースで流れた。場所を聞いたとたん、空気が凍った。
俺たちが見たのは、ちょうどその現場付近だった。

何日かして、ユウジが体調を崩した。夜になると、白い何かが夢に現れて、道端で「帰れないよ」と囁いてくると言う。サキも眠れなくなったらしく、祖母の仏壇で毎晩長いこと泣いていた。
俺には何も起きなかったと思っていた。

夏が終わる頃、祖母の家で、ごく小さい紙切れを見つけた。誰の字かわからないが、一本線で“由良峠に行くな”とだけ書いてあった。

それでも、一度だけあの現場を見に行った。
枯れた草むらには何もなかった。ただ、不思議なことに、その日の帰り道、肩に冷たい何かが乗っていた気がしたんだ。

あれから数年経つ。
ユウジはいまだに心療内科に通ってるし、サキは故郷を離れて連絡もよこさない。
私は今も、夏の夜、誰もいないはずの道端を見るのが怖い。

名前も顔もわからない女が、一度も俺の夢に出てきたことはない。

でもあの日から、夜が来ると、誰かがずっと見ている気がするんだ。

#遺体 #山道 #女性

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